喜劇二題
モーツァルト『劇場支配人』&ロッシーニ『絹のはしご』
終演いたしました (井内美香さんの公演レポートをページ下部に転載)
インターネットラジオ OTTAVAの番組でも紹介していただきました。こちら
2016年 1月16日(土) 13:00開演 / 17:00開演
かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール 地図 全席自由 4000円
『劇場支配人』配役 | ジルバークランク 富永美樹 |
マダム・ヘルツ 内海響子 |
フォーゲルザンク 岡嶋晃彦 |
ブッフ 五島伝明 |
劇場支配人 たきざわ勝彦 |
『絹のはしご』配役 | 13:00開演 | 17:00開演 |
ジューリア 後見人にブランザックと結婚することを 迫られているが、実は密かにドルヴィルと 既に教会で誓いを立てている |
松山美帆 |
中川美和 |
ドルヴィル ジューリアの夫、 後見人がブランザックをジューリアに 勧めるので気が気ではない |
阿部修二 |
川野浩史 |
ジェルマーノ 後見人ドルモン家の召使い。 ジューリアの優しい言葉に騙される |
伊東達也 |
上田誠司 |
ルチッラ ジューリアのいとこで、 実はブランザックの事が好き |
栗田真帆 |
渡部菜津美 |
ブランザック 後見人の勧めでジューリアの許嫁として現れる。 ドルヴィルとも友人関係 |
堀内士功 |
吉川賢太郎 |
ドルモン ジューリアの後見人だが 彼女が秘密裏に結婚していることを知らない |
根津久俊 |
竹内篤志 |
指揮 安藤敬
演出 奥村啓吾
フルート 篠原梨恵 オーボエ 戸田智子
ヴァイオリン チャン・テヒョ(1st.) 立田祥子(2nd.)
ヴィオラ 安田貴裕 チェロ 竹本聖子
ピアノ 鈴木架哉子
主催・制作 モーツァルトホールでオペラを上演する会(Le voci)
オペラエクスプレスの井内美香さんが
Facebookページにて公演レポートをしてくださいました。
【公演レポート】かつしかシンフォニーヒルズでLe Voci主催公演、モーツァルト《劇場支配人》とロッシーニ《絹のはしご》のダブルビルを観てきました。最高に面白かったです!!!音楽と舞台の融合が素晴らしい出来映えでした。
今回は小さめなアイリスホールでの上演でした。レンガ色の上品な内装で音響も良いホールです。演出はLe Vociで2014年にドニゼッティ《ランメルモールのルチア》を手がけた奥村啓吾。
第 一部のモーツァルト《劇場支配人》は、劇場支配人の所にオーディションにおしかける歌手達が繰り広げる舞台裏のドタバタをオペラにしたものです。台詞で演じられる部分は演出の奥村による書き下ろし。まずは劇場支配人のダイエットのお話から始まり、オペラ上演の許可が出て大喜びするまでが芝居になっています。たきざわ勝彦の演ずる支配人と、五島伝明の扮する役者ブッフとのやり取りがとぼけた味わい。そしていよいよオーディションとなり、マダム・ヘルツ役の内海響子が華麗なる赤いドレスで登場し磨かれたコロラトゥーラの美声を披露すると、次には美しい空色のドレスのジルバークランク嬢役の富永美樹が現れ、リリックな歌唱でそれに対抗します。フォーゲルザンクを歌ったテノールの岡嶋晃彦も伸びやかな声。「私がプリマ・ドンナ!」という一触即発の三重唱から「芸術への敬意を持たなくては」という歌手達の改心を経て、役者ブッフが最後を飾って終わります。皆の演技も自然で楽しめました。
そして休憩を挟んで第二部は《絹のはしご》です。ロッシーニが20歳の時にヴェネツィアで発表した一幕物のファルサ(笑劇のオペラ)ですが、音楽は技巧的にかなり難しい部分を含む曲です。
安藤敬の指揮はいつもながら天性のオペラの呼吸を持っているのに加え、喜劇にぴったりの躍動感のあるテンポが素晴らしかったです。小編成の管弦楽は楽器配分も丁重で、特に木管楽器(オーボエとフルート)を堪能しました。
物語は後見人に内緒で恋人ドルヴィルと秘密の結婚をしているジューリアが、後見人が連れて来たブランザックをうまくかわして最後には自分の結婚を皆に認めてもらい、ブランザックは彼に恋していたジューリアの従妹ルチッラと結ばれるというお話。チマローザの《秘密の結婚》やロッシーニ自身の《セビリャの理髪師》などに似た内容です。
今回、素晴らしかったのが音楽と演出が一体となりこのオペラの魅力を最大限に引き出していた事です。奥村の演出は歌手 の演技が活発なのに自然、そしてお芝居の内容に本当にぴったり合っています。そして安藤の音楽作りもロッシーニが書いた様々な表現を思い切ったアクセントをつけて演奏し、それが演出と完璧に 一致して素晴らしい効果を生み出していました。このように演奏されればロッシーニの音楽はその真価を発揮出来るのです。
そして、演出と指揮の表現力に歌手達も負けてはいませんでした。ジューリアを歌った中川美和はしっかりしたコロラトゥーラのテクニックと磨かれた音色を持ち、舞台での存在感もありました。ドルヴィルを歌ったテノールの川野浩史はロッシーニに適した明るい美声で、演技力もあり、アリアでは超高音のカデンツァを披露。ブランザック役のバリトン吉川賢太郎は、もう少しドラマチックなオペラも歌えそうな声量のある声。根は真面目な色男役をスマートに演じました。少しシャイなルチッラを歌った渡部菜津美は美しい音色のメゾ・ソプラノ。ドルモンの竹内篤志も美声で演技も良かったです。
それから今回、美しいバリトンの声と熱い演技で印象的だったのが召使いジェルマーノ役の上田誠司です。ジューリアに優しくされてその気になったり、酔っぱらって間違った相手に逢い引きを伝言したり… それぞれの場面がとにかく面白かったです!
衣裳も美しく、照明の切り替えも効果的でした。絹のはしごを小道具として使ってのハッピー・エンドの演出も気が利いていました。
ほぼ満員のお客さんの反応も良く、終演後は長い拍手が続きました。このような素晴らしい公演が昼と夜のキャストそれぞれ一回ずつで終わってしまうのはもったいないです。これからもLe Vociさんでこのような楽しいオペラ公演が観られるようにと願っています!(文・井内美香)reported by Mika Inouchi